低体温療法
低酸素・外傷・出血などで損傷を受けた脳に対して
脳保護作用や頭蓋内圧低下作用を目的として
損傷後早期に、一定期間・体温(脳温)を32-34℃まで
低下させる低体温療法を脳低温療法といいます
心肺蘇生後患者におこなう低体温療法は
非施行群に比較して有意に転帰が改善すると報告され
アメリカ心臓協会(American Heart Association:AHA)
による心肺蘇生と救急心血管治療のための国際ガイドライン
によると心肺停止患者で自己心拍再開後に意識回復が
みられない症例のうち初期心電図が心室細動を示した
症例に対しては32‐34℃の低体温療法を12‐24時間
おこなうことが推奨されており、初期心電図が心室細動で
なくとも低体温療法は有効であると結論されています
重症頭部外傷や脳卒中患者に対する低体温療法の有効性に
ついては未だ一定の結論に至っておらず検討が続行されています
低体温療法経緯
1990年代半ばより頭部外傷や脳梗塞・脳内出血患者に対して行われてきた治療法です
GCS5点以下の頭部外傷や脳梗塞脳内出血患者であっても
脳低体温療法の実施により、社旗復帰を遂げた症例は数多く報告されています。
近年、脳低体温療法の合併症も多く報告され脳内出血患者に対する
脳低体温療法のエビデンスレベルは高くありません
そのため現在では第3次救命救急センターなど環境の整った
施設において、症例を厳選したうえで実施されているのが現状です
心肺蘇生後の低体温療法は大脳の代謝低下や興奮性アミノ酸の抑制
脳虚血による中枢神経系の脱分極化の抑制・活性酸素産生や炎症の抑制を期待するのもです
頭部外傷後の脳低体温療法(32~33℃)に比較し軽度低温(34℃)で短時間(2~3日)行われます
蘇生後低体温療法の狙い
心停止後の蘇生によって自己心拍が再開した状況では全身の虚血とそれに続く再灌流が起こります
それにより細胞が破壊され重要臓器細胞の破壊(アポトーシス)が起こり致命的状態となります
上記の機序は温度感受性であるため低体温を維することで
有害事象の進行を遅らせ脳や心臓を保護することが蘇生後低体温療法最大の狙いとなります
蘇生後低体温療法の適応
・年齢≦70歳
・ 症例:初期調律VF/VT 救急隊接触後にPEAとなった場合
・神経学的所見:蘇生時GCS≦8
・頭蓋内圧30mmHg以下、脳幹反射が残存していること
・bystanderの有無
・胸骨圧迫開始までの時間
・卒倒から循環再開までの時間は問わない
・蘇生後平均動脈圧(MAP)>60mmHgを維持可能
・インフォームドコンセントが得られた症例
体温維持療法
2022年(令和4年)低体温療法は体温維持療法に名称を変え算定条件が変更され
低体温療法・12200点/日算定される
❶心肺蘇生後の患者に対し直腸温 35℃以下で 12 時間以上維持した場合に
開始日から3日間に限り算定する
❷重度脳障害患者への治療的低体温の場合は算定できない
❸当該点数を算定するに当たり、必ずしも手術を伴う必要はない
体温維持療法・12200点/日
❶心肺蘇生後の患者に対し直腸温 36℃以下で 24 時間以上維持した場合に
開始日から3日間に限り算定する
❷重度脳障害患者への治療的低体温の場合は算定できない
❸当該点数を算定するに当たり、必ずしも手術を伴う必要はない
低体温療法実施
①適応の評価
②モニタリング
心電図・低侵襲血行動態・SpO2 EtCO2
深部体温(食道温、血液温、膀胱温、直腸温)
混合静脈酸素分圧(SvO2) 経静脈酸素飽和度(SjO2)
③観察
循環動態・自発呼吸の確認・血液検査・CTで脳浮腫の評価
脳幹部反射測定・ABR・脳波検査
④全身管理
呼吸管理、循環管理
適度な酸素化、体位変換、抗生剤投与
鎮静
ミタゾラム0.15mg/kg/時
エスラックス 0.5mg/kg/時
循環(寒冷利用に対する十分な輸液、適宜カテコラミン投与)
電解質補正(K値4.0目標)
消化管に対する抗潰瘍薬予防投与
血糖補整血糖≦150mg/dL
DVT予防
合併症
肺合併症(無気肺、肺炎など)
不整脈の誘発:カリウムが腸壁から対外に流出し
低カリウム血症となり、不整脈を誘発する
麻痺性イレウス:筋弛緩薬の影響により腸管が麻痺状態となる
出血傾向:血小板が門脈系にシフトし減少する
易感染性:低体温で免疫力が低下する
血糖値上昇:膵臓血流低下によるインスリン分泌低下や
カテコラミン増加により血糖値が上昇する
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